大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)497号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人滿園勝美の上告趣意第二點は「原判決は不當に長く拘禁せられた後の自白を證據としている違法がある。被告人は昭和二十一年七月三十日勾引状の執行を受けてから原審の公判の日即ち昭和二十二年十月十八日まで約一年三月の久しい間拘禁せられたものであり、しかも原審が證據として採用した『當公廷における被告人の判示同旨の供述』は不當に長く拘禁せられた後の自白である。從って被告人のこのような自白を證據とした原判決は違法である。或る拘禁が不當に長いかどうかは、事件の大小難易、共犯の多少によって一概に決することができないことは勿論であるが、本件における一年三月の拘禁は不當に長いということができる。拘禁中の取調回數被告人の健康状態等を考慮すれば、數ケ月の勾留をもって十分である。原審が未決勾留日數中三百日を本刑期に通算したことは自らその不當に長かったことを認めたものである。次に不當に長く拘禁せられた後の自白とは、不當に長く拘禁せられた後においてはじめてなした自白は勿論はじめからの自白が不當に長く拘禁せられた後まで維持せられた場合をも意味することは、立法の精神から明らかである。果して然らば、本件の自白は不當に長く拘禁せられた後の自白であり、これを證據とした(唯一の證據ではないとしても)原判決は破毀を免れないものと信ずる。」というのである。

しかし、本件は最初共同被告人十名という多數人に對する豫審請求をもって開始された事件で、犯罪の態様も相當に複雑多岐に亘っているので、被告人に對する所論拘禁の期間も、直ちに不當に長いものと即斷することはできないのであるが、かりに原判決が證據とした原審公判における被告人の自白前の拘禁が不當に長いものであるとしても、被告人は本件犯行については、拘禁後四十餘日を経た豫審の取調べにおいて、すでに自白をしているのであり、更にその後七十餘日を経た第一審公判においても同様自白をしているのであって、この程度の期間の拘禁は、前述の事情等からみて不當に長い拘禁ということのできないのは勿論であり、要するに、被告人は當初から本件については、豫審、第一審公判、原審公判を通じて、終始同様の自白をしているのであって、原審が證據とした原審公判における自白も、長い拘禁がもととなって、若しくは、その拘禁に影響せられて自白をするに至ったものとは、とうてい考へられない。たとい不當に長い拘禁後の自白であっても、その拘禁が、その自白に對して、因果の關係をもたぬこと明瞭である場合は、刑訴應急措置法第十條第二項にいわゆる「不当に長く拘禁された後の自白」にあたらないものと解すべきことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年六月二三日言渡當裁判所昭和二二年(れ)第二七一號大法廷事件参照)從って右自白を證據とした原判決に、所論のような違法があるとはいえない。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の理由により刑事訴訟法第四四六條に從い、主文のごとく、判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例